「物とともに、経験と時間を贈る」MA STORE店主・松尾翼が実践する、贈り物選びの美学
センスのいい贈り物とは何か。その問いの答えは、意外にもシンプルなことなのかもしれません。
「贈り物を選ぶときは、ただ相手のことだけを考えていますね」そう話す松尾翼さんは、東京・世田谷を拠点に、日本のコンテンポラリーデザインと工芸を専門に扱うセレクトショップ「MA STORE」を営んでいます。
インポート商品を扱うセレクトショップでの7年の経験を経て、「日本のものが正当に評価される受け皿をつくりたい」という思いから、1年半ほど前に独立。取り扱う作品の選び方も、贈り物の選び方も、その根底には一貫した美学が流れています。そんな松尾さんに、センスのいい贈り物とは何か、お話を伺いました。
「普通」は「凡庸」とは違う
——まず、MA STOREについて教えてください。
松尾:「日本のコンテンポラリーデザインと工芸」を大きなテーマに掲げたセレクトショップです。器やプロダクト、アートなどを中心に取り扱っています。
前職では欧米のインポート商品を扱うセレクトショップで7年間働いていました。そこで働くうちに、コロナや円安、輸送費の高騰などが重なって、海外の商品が毎年のように値上がりしていく状況になっていったとき、全く同じ物の値段が状況によって大きく変わってしまうことに疑問を持ち始めたんです。輸送費や為替変動で積み上がったコストって、物自体の価値ではないじゃないですか。そこが腑に落ちなくて。
そんなときに、日本の作家や職人、デザイナーと知り合う機会が増えて、日本のものづくりはクオリティが高いだけでなく、価格以上の価値があると改めて実感したんです。一方で、日本のセレクトショップは海外のものを紹介するのがメインになりがちで、日本国内でこういうデザインをしている人たちの受け皿になる店が少ない。そういう状況に問題意識があって、「だったら自分がやろう」と思ったのが始まりです。
——取り扱う作品を選ぶ基準はどういったものですか。
松尾:大きく3つあります。「普通であること」「実用性があること」「適正な価格であること」です。
「普通」というのは、凡庸とか平凡という意味じゃなくて。「普通」は「普遍に通ずる」って書くじゃないですか。物事の本質をちゃんと捉えたうえで、現在の流行との距離感をどれだけ正確に測れるか。その正確さを持って生まれたものが「普通のもの」だと思っています。例えば、Levi's(リーバイス)の「501」。一般的な「普通」という意味だと、デニムがパンツの形になっていて、ポケットがついてるだけのものが「普通」のはずですが、Levi'sには独自のディテールがあるし、その中には特許をとっているものだってある。それでも普遍に通じているから今も定番であり続けている。そういうものを「普通」と捉えています。
実用性というのも、単純に使い勝手がいいということだけではなく、例えば、うちが扱っているオブジェやアート作品も個人的には実用的だと思っていて。それを置くことで部屋の空気が変わるなら、それは用途として成り立っていると思うんです。逆に、素材や技術を表現することが目的になっていて、暮らしの中に置かれた姿が想像しにくいものは、実用的じゃないと判断することが多いです。
価格については、製造・作り手・お店がそれぞれ3割ずつというバランスが美しいと思っていて。うちで取り扱う商品は可能な限り同じ掛け率に統一してもらっていますね。若手の作家さんだと、原価が高くなり作り手の取り分が少なくなっている方も珍しくないですが、そういうときは商品の価格を上げてもらうようにお願いしてバランスをとります。掛け率にバラつきがあると、売り手は利益率が高いものを無意識に優先して勧めたくなってしまう。けどそれは、売り手の心理として不健康だし、買い手に対しても誠意がない。だからこそできる限り均一にして、本当にそのお客様に合うものを勧められるようにしています。
「物」を贈るだけでなく、「経験や時間」を贈る
——松尾さん自身が贈り物を選ぶときも、その審美眼は生きてくるのでしょうか。
松尾:審美眼という意味では一緒だと思います。自分が美しくないと思うものは贈りません。ただ、お店で取り扱いたいものと、その人に贈りたいものは違う。贈り物を選ぶときは、ほとんど自我がなくて。相手のことだけを考えています。
何を贈るかということ以上に、「なぜあなたにこれを渡すのか」が説明できるかどうか、ということを意識しています。相手の節目だからとか、自分が昔から使っていたものだからとか、地元に縁があるものだからとか。ちゃんとストーリーが語れる贈り物を選ぶようにしていますね。
——そのように考えるようになったのは、いつからですか?
松尾:20代の頃に自然と身についていったと思います。当時はお金がなかったので、高価なものを贈れなかった。でも、相手には喜んでほしいじゃないですか。そんなとき、自分に何ができるかというと、徹底的に相手のことを考えることくらいしかない。それが自分にとって、相手に贈ることができる価値になっていきました。
——「何を贈るか」よりも「なぜ贈るか」ということですね。
松尾:そうです。だから、物そのものを贈っているというより、「経験や時間」を贈っているという感覚が近いかもしれません。例えば花瓶を贈るとき、花瓶というものを渡しているのではなく、その人が花を飾る時間や経験を贈っているという意識があります。
例えば「今まで花を飾ったことがない」という人には、素敵な花瓶を1つ贈りたいと思う。すぐに使わなくてもいいけど、いつかそのタイミングが来たとき、「あのとき貰った花瓶があるな」と手に取ってもらえたら、それがいいなと思っています。だから流行に左右されたり、経年で劣化してしまうものは贈らない。その時が来るまで、ちゃんと待てる質の良いものを選ぶようにしています。
本を贈るのも好きです。本って、あらゆるジャンルで相手がまだ経験していない時間を渡せる、万能な贈り物だと思っていて。何かの節目を迎える人には名著を選ぶこともあるし、自分が読んで面白かった本を「感想を聞かせて」という気持ちで渡すこともある。文字として言いたいことが詰まっているから、気持ちが伝えやすいんですよね。
良いものとの出合い方
——良いものを見つけるうえで、どのように情報収集しているんですか?
松尾:仕事柄リサーチにもよく出かけますし、知り合いのSNSを見ていることも多いです。お店で取り扱うものに関しては、クラフトフェアや展示、工房まで足を運んだり、友人づてに紹介してもらうことで、作り手と出会うことも多いですね。
そうやって良いものと出合ったとき、「あ、これ○○さんに合いそう」と思うことがあって。そう思ったら先に買っておいて、その人の節目や誕生日が来たときに渡す。だから、僕が贈り物を選ぶときは、「良いもの」と出合ったときであることも多いですね。
——そういった良いものを探しに、MA STOREに贈り物を選びにくるお客さんもいるのではないかなと思います。
松尾:来てくれますよ。正直、うちには分かりやすいラッピングのセット商品はないので、贈り物を探しやすいお店かというと、そうじゃないかもしれない。
でも、話しながら「どんな人への贈り物ですか?」と聞いていくのはとても好きです。相手のことを一緒に考えて、うちの商品に合いそうなものが見つかればおすすめするし、うちにはないなと思ったら「だったらあのお店に行ってみてください」と案内することもある。そういう寄り添い方は、自分なりに意識しています。
相手が普段気が届いていない分野の、ちょっといいものを贈る
——松尾さん自身が、もらって印象に残っている贈り物はありますか。
松尾:今まで関わってきた人の中で、一番プレゼントがうまいと思うのが妻なんです。自分でもこういう仕事をしていてこだわりもあるから、相手からすると何を贈ればいいか分からないと思うんですよ。大変だろうなとは思っているんですが、妻が選んでくるものは、毎回なぜかすごく嬉しくて。
いつかの誕生日に、あるブランドの靴ベラをもらいました。靴ベラって、自分のためにわざわざ買うことはあまりないじゃないですか。でも毎日使うものだし、(もらったものは)デザインも良いし使いやすい。「相手が普段気が届いていない分野の、ちょっといいものを贈る」という視点を、そのとき改めて実感しました。それ以来、自分も贈り物を選ぶときにその視点が加わった気がします。
——実際にその視点から、どんな贈り物をしたことがありますか?
松尾:以前、引越しをするという友人に時計を贈ったことがあります。時計って「買わない人は買わないし、買うとなると結構悩む」ものじゃないですか。でも、その時計は紙でできた小さな時計だったので、値段もそこまで高くなく、もらう側も負担にならない。新しい部屋が広くなると聞いていたので、どこかに飾ってもらえるかなと。もちろん、その人のデザインの好みも分かっていたから、気に入ってくれるだろうと思って選びました。
——それは嬉しい贈り物だろうなと思いました。松尾さんにとって「センスのいい贈り物」とは、どういうものですか?
松尾:それはやっぱり、「相手のことを考えているな」と伝わってくるもの、だと思います。ストーリーと経緯があって、その上で僕に合うと思ってくれたんだな、と分かる贈り物は嬉しい。
もちろん、相手との関係性がまだそれほど深くない場合は、相手のライフスタイルまで含めて考えるのは難しいですよね。そういうときは、値段は高くなくとも個性のある一点ものの作品を選ぶことが多いです。それだと「いろんなものの中からあなたのために選んだ」という気持ちが伝わりやすいし、それでいて価格も相手に負担をかけない範囲に収まる。贈り物の難しさって、相手との距離感と、選ぶものの重さを合わせることだと思うので、そこをうまく調整できるのが小さな一点ものだと思います。
贈り物としての、調味料の価値
——いま手に取ってもらっているのが、(ふつうの)ショップのギフト商品である「おすすめセット」となります。贈り物として、このギフトボックスについて、どう思いますか?
松尾:最初に「普通のものとは、物事の本質をちゃんと捉えたうえで、現在の流行との距離感を正確に測っているもの」と言いましたが、それに加えて「一歩引いて、使い手を引き立ててくれる」ことも大事だと思うんです。
調味料ってまさにそれなんじゃないかと思いました。良い調味料は、料理を引き立てる存在として一歩引いている。自分自身を主張しすぎていないからこそ、どんな方へ贈っても喜んでもらえるのではないかと。(ふつうの)ショップの商品を見ていたら、そのことを改めて実感しました。
僕は相手が欲しがっているものを渡すよりも、「あなたにこれが合いそうだと思って」と渡せるものの方が、贈り物としては好きです。調味料は毎日の食卓に寄り添い続けるものだから、そういう意味でも贈り物として面白いと思いました。
松尾翼(まつお・つばさ)
「MA STORE」店主。東京・世田谷を拠点に、日本のコンテンポラリーデザインと工芸を専門に取り扱うセレクトショップを営む。インポート商品を扱うセレクトショップでの7年の経験を経て独立。作り手とともに日本生まれのデザインや工芸に触れるきっかけとなる場づくりを目指して活動中。
Instagram: @mastore.official